君の涙は春になる。
「会いたい、って思っちゃった」

ぽつりと落ちた言葉は、雨の音よりも弱かった。
それでも湊はちゃんと聞いていた。

「うん」

「もう一回でいいから、名前呼んでほしいとか、ごはん作ってほしいとか、そんなことばっかり考えて……」

涙があふれた。
止めようとしても無理だった。
紬は顔を伏せたまま、必死に袖で目元をぬぐう。

すると、隣から小さな声がした。

「白石」

紬は顔を上げた。

湊が、まっすぐ紬を見ていた。

「今日は、泣いていい日だよ」

その一言で、完全にだめになった。

紬は声を殺して泣いた。
みっともないくらい泣いた。
駅までの短い道なのに、涙はなかなか止まらなかった。

湊は何も言わず、ただ傘を少し紬のほうへ傾けてくれていた。

そのとき紬は、知らなかった。
この春が、自分の人生を変える恋の始まりになることも。
朝比奈湊が、自分よりずっと深い悲しみを抱えていることも。
そしてこの恋が、いつか涙の意味を変えてしまうことも。
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