君の涙は春になる。
その日の放課後、紬は図書室にいた。
もともと本は好きだった。
静かな場所も好きだった。
誰にも話しかけられず、ただページをめくるだけの時間は、心を少しだけ軽くしてくれる。
返却棚に本を戻して、次に読む本を探していたときだった。
高い棚の上段にある文庫本へ手を伸ばした瞬間、指先が空を切った。
ほんの少し、届かない。
もう一度背伸びをした、そのとき。
頭のすぐ横から、すっと腕が伸びた。
「これ?」
低い声が近くでして、紬の肩がびくっと揺れた。
振り返ると、朝比奈湊が本を手にして立っていた。
「あ……」
「違った?」
「いや、合ってる、けど」
心臓がうるさい。
近い。
思っていたよりずっと近い。
湊は表紙を見て、それを紬に渡した。
「はい」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
それだけのやりとりなのに、なぜこんなに息が苦しいのだろう。
紬は本を受け取って、視線を落とした。
「白石も、図書室来るんだ」
「も、とか言うってことは、朝比奈くんも来るんだ」
「たまに」
「意外」
そう言うと、湊は少しだけ眉を上げた。
「どういう意味」
「なんとなく。もっと運動してそうだから」
「してるよ」
「えっ」
「陸上部」
それは初耳だった。
言われてみれば足は長いし、走るのも速そうだ。
でも、教室にいる彼からは、部活で汗を流す姿がうまく結びつかなかった。
もともと本は好きだった。
静かな場所も好きだった。
誰にも話しかけられず、ただページをめくるだけの時間は、心を少しだけ軽くしてくれる。
返却棚に本を戻して、次に読む本を探していたときだった。
高い棚の上段にある文庫本へ手を伸ばした瞬間、指先が空を切った。
ほんの少し、届かない。
もう一度背伸びをした、そのとき。
頭のすぐ横から、すっと腕が伸びた。
「これ?」
低い声が近くでして、紬の肩がびくっと揺れた。
振り返ると、朝比奈湊が本を手にして立っていた。
「あ……」
「違った?」
「いや、合ってる、けど」
心臓がうるさい。
近い。
思っていたよりずっと近い。
湊は表紙を見て、それを紬に渡した。
「はい」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
それだけのやりとりなのに、なぜこんなに息が苦しいのだろう。
紬は本を受け取って、視線を落とした。
「白石も、図書室来るんだ」
「も、とか言うってことは、朝比奈くんも来るんだ」
「たまに」
「意外」
そう言うと、湊は少しだけ眉を上げた。
「どういう意味」
「なんとなく。もっと運動してそうだから」
「してるよ」
「えっ」
「陸上部」
それは初耳だった。
言われてみれば足は長いし、走るのも速そうだ。
でも、教室にいる彼からは、部活で汗を流す姿がうまく結びつかなかった。