イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
廊下へ出ると、教室のにぎやかな音が少しだけ遠ざかった。
窓から入る風が、まだ夏の熱を残している。

湊はしばらく何も言わなかった。
紬も、何から聞けばいいのかわからない。

やがて彼は、前を向いたまま口を開く。

「最近、よく一緒にいるよね」

その声は静かだった。
怒っているわけではない。
でも、抑えた感情がにじんでいた。

「悠生くんと?」

「うん」

紬は少し迷ってから答える。

「同じクラスだし、向こうから話しかけてくるから」

「楽しそう」

そのひと言に、胸がちくりと痛む。

「……やっぱり気にしてる」

そう言うと、湊は自嘲するみたいに少し笑った。

「気にしてる」

否定しないことが、逆に切なかった。

「この前も言ったけど、嫌なんだよ」

紬は息をのむ。

「名前呼ばれるのも、近いのも、当たり前みたいに隣にいるのも」

ひとつずつ落ちてくる言葉が、全部胸を熱くする。
教室の真ん中じゃなく、こうしてふたりきりになってから言うところが、いかにも湊らしかった。

「でも、言える立場じゃないって」

紬がそっと返すと、湊は少し黙る。

「そう思ってた」

「思ってた?」

彼はようやく紬のほうを見た。
その目はひどくまっすぐで、少し苦しそうだった。

「でも、今日見てたら無理だった」

心臓が大きく鳴る。

「笑ってるの、見たくないわけじゃない」

「うん」

「でも、俺以外のやつの隣であんなふうに笑うの、平気じゃない」

その独占欲が、あまりにも真剣で、紬はもう目をそらせなかった。
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