イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
「白石」

名前を呼ばれる。
それだけで体が熱くなる。

「俺、待たせてるくせに、こんなこと言うのずるいってわかってる」

「うん」

「でも、取られたくない」

紬の指先が小さく震えた。

湊は一歩だけ近づく。
廊下だから、触れられない。
誰かが来るかもしれない。
そのぎりぎりの距離が、余計に苦しい。

「悠生といるなとは言えない」

「うん」

「でも、俺の前であんなふうに笑わないでほしいって思った」

紬は泣きそうなまま笑ってしまう。

「それ、かなりわがまま」

「知ってる」

「ずるい」

「それも知ってる」

いつもなら引いてしまいそうな言葉なのに、今日は違った。
ずっと静かで、我慢ばかりしていた湊が、初めてちゃんと欲しいものを口にしている。
それがたまらなく愛しかった。

「どうして今、言ってくれたの」

紬が小さく聞くと、湊は少しだけ目を伏せた。

「限界だったから」

そのひと言が、胸の奥に深く落ちる。

「教室であいつが白石に近づくたび、何も言えない自分が一番嫌だった」

風が吹いて、廊下のカーテンが揺れた。
その白い影の向こうで、湊の表情だけがはっきり見える。

「俺、ちゃんとした形にできてないのに」

苦しそうに、でもまっすぐに続ける。

「白石のこと、もう誰にも近づいてほしくないって思ってる」

紬の胸がいっぱいになる。

好きだと言われた夏祭りの夜とは、また違う。
これはもっと生々しくて、もっと切実で、もっと近い感情だった。
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