イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
準備がひと段落して、他の子たちが材料を取りに教室を出ていった。
気づけば、その場には紬と悠生だけが残っていた。

廊下の向こうから、かすかに別のクラスの声が聞こえる。
でもこの教室だけ、妙に静かだった。

「紬」

悠生が、真正面から名前を呼ぶ。

「ちょっとだけ、ちゃんと聞いて」

紬は言葉を失ったまま立ち尽くす。

「俺、久しぶりに会えたとき、すごくうれしかった」

その声は、いつもの軽さがなかった。

「最初は、懐かしいってだけだと思ってた」

夕方の光が、教室の床に長く伸びている。
その中で悠生の表情だけが、やけにはっきり見えた。

「でも違った」

紬の喉が小さく詰まる。

「また会って、話して、笑ったら、やっぱり紬が特別だって思った」

まっすぐすぎて、息ができない。

「だから」

悠生は少しだけ困ったように笑う。

「たぶん俺、もう幼なじみのままではいられない」

その言葉が、静かに落ちた。

告白だ。
はっきり好きとは言っていない。
でも、もう十分だった。

紬はぎゅっと指先を握る。
頭の中に浮かぶのは、ひとりしかいない。
それでも、今ここで向けられている好意を雑にはできなかった。

「悠生くん……」

やっと名前を呼ぶと、悠生は少しだけ目を細めた。

「返事は今いらない」

「え」

「困ってる顔してる」

その言い方がやさしくて、逆に胸が痛む。

「でも、ひとつだけ知っててほしい」

悠生は一歩だけ近づいた。
近い。
けれど無理に触れたりはしない。

「俺、本気だから」

そのひと言が、教室の空気を変えた。
< 98 / 118 >

この作品をシェア

pagetop