イケメン男子は、天然美少女を一途に溺愛中。
その瞬間。
教室の後ろの扉が、静かに開いた。

紬がはっと振り向く。

そこにいたのは、湊だった。

胸が止まりそうになる。

いつからいたのかわからない。
でも、今の言葉を聞いてしまったのだと、彼の表情を見た瞬間にわかった。

静かだった。
静かすぎた。
何も言わないぶん、逆に苦しかった。

「朝比奈」

悠生が先に口を開く。
けれど湊は答えず、まっすぐ紬を見た。

その目に、紬の胸は締めつけられる。
傷ついたような、怒っているような、でも何より必死に抑えているような目だった。

「……ごめん」

なぜか、紬はとっさにそう言っていた。
何も悪いことはしていないはずなのに。
でも、傷つけた気がしてしまった。

湊はそのひと言に、わずかに眉を動かした。
それから低い声で言う。

「なんで白石が謝るの」

苦しい声だった。

そのまま教室に入ってくると、湊は悠生ではなく紬の前で止まる。

「返事、するの」

息が止まる。

悠生も黙っている。
教室の空気が張りつめて、夕方の光まで痛い。

「まだ」

紬は小さく答えた。

「まだ、してない」

その言葉に、湊の喉がわずかに動く。
安心したのか、余計に苦しくなったのか、紬にはわからなかった。

「そっか」

たったそれだけ。
でも、その短さが逆に切なかった。
< 99 / 118 >

この作品をシェア

pagetop