もう戻れない
「本当使えない…」
晃「は?」
「ねぇ、澤村さん」
わざとらしく大きめにため息をついて小言を呟くと、案の定しっかり耳に入ったようで、眉間に皺を寄せた晃輝。視界に入れないように、運転席に上半身をできるだけ乗り出して、澤村さんに話しかけた。
「貴裕がいると話しづらいだろうから、今話聞かせてもらっても良いかな?」
澤「ええ、良いですよ。何でも聞いてください」
後ろから服の裾を引っ張られて、〝ちょっと、服伸びる〟と怒って振り返ると、使えないと言ったことが余程響いたのか、虚無の表情で私を見ていた。
「…ごめんって。でも本当に使えないから。法戸くんには一人で聞きに行ったんだから、切り出してよ」
晃「法戸くんのとこは、沙和さんが自分で行きたくて行ったんでしょ?俺、仕事だったし」
「休めば良かったじゃん」
晃「行くなんて聞いてないし」
「予定聞けば良いじゃん」
澤「あの…、沙和さん」
澤村さんに話を振っておいて、晃輝と話し込んでしまった。話を切ってもらって気づいて、また澤村さんに向き直る。晃輝は隣で拗ねているけど、放っておけば良い。
澤「会長が殺された日のことを聞きたいんですよね?」
「そう。貴裕以外には聞いた。それで、澤村さんはどうしてたのか聞きたいの」
澤「他のみんなは何て言ってるんですか?」
「それは答えられない」
危うく答えそうになったけど、あからさまに探るのはやめてほしい。
澤「そうですよね。分かってて言いました。会長が殺されたって聞く前は、地下室にいました」
「地下…」
澤「沙和さん、知らないですよね。会長には話すなって言われてましたけど、実は地下室があるんですよ」
「うん、知ってる。地下室で何してたの?」
澤「何って…、練習しかないでしょ。他に何をするんです?」
殺害に使った銃が地下室にあって、練習以外にあの場所にいた理由といえば、凶器を取りに行っていたとしか思えない。しかも、他の人たちは見まわりに出ていたのに。
晃「会長を殺す機会を窺っていたとか」
澤「…確かに」
晃輝の落とした返事に冷静に答える一方、地雷を踏んだのか急ブレーキをかけられて、危うく首を痛めるところだった。晃輝も同じように首を痛めそうになりながらも、私が前に飛び出ないように体の前に手を出してくれていた。
澤「根拠はありますか」
怒っているのが分かる、ドスの効いた低く鈍い声。疑われるような行動をする方が悪いとは思うけど、今はそれを飲み込んだ。