もう戻れない
晃「根拠なんて。澤村さんを犯人だなんて言ってませんし、あくまで推測の話です」
澤「根拠にしては、俺を犯人に仕立て上げようとする口ぶりでしたけど」
「気を悪くさせてしまって、ごめんなさい。私たちも全く犯人の見当もつかなくて、焦っていて。実は他のみんなは、外にいたの」
今更取り持っても収拾はつかないとは思うけど、足掻いてみたら案外上手くおさまるかもしれない。何を考えているか、表情の読めない澤村さんだから、とにかく閉鎖空間では穏和に事を進めたい。
澤「…あなたは、沙和さんを見習った方が良い。いつか取り返しのつかないことが起こりますよ。例えば…、俺に消されるとか」
目から光が消えた澤村さんは、この上なく凄みのあるオーラがあって、思わず背中を仰け反らせてしまうような迫力があった。
澤「お兄さんが会長の側近だからといって、あなたの立場が良くなるわけじゃない。下の下です。自分の役回りを考えてください」
「あ、あの…。澤村さん、もうそのくらいにしてあげて?」
澤村さんの肩に手をゆっくり置くと、ハッと我に返るように目を大きく開けて私を見た。
澤「…失礼しました。えっと」
「地下室で何してたかって話」
喧嘩を売る晃輝も大概だけど、それを珍しく買う澤村さんも意外だった。感情を読ませない訓練もするのに、感情をここまでむき出しにするなんて、きっと何かあるんだと思う。
澤「会長に認めてほしくて、的撃ちの練習をしていました。汚れ仕事は、いつも俺を指名してくるんです。会長は俺を嫌ってるから、手を汚したいんでしょうね」
「そんなことないでしょ」
澤「それがあるんですよ。藤吉も法戸も、貴裕さんに見初められて入ってるから、会長は認めてくれてなくて、探るような関わり方をされます」
澤村さんが気に食わないのは、会長に認められている秀くんの弟である晃輝が必然的に気に入られる、不合理な状況。実力で認められたい人から見たら、気に食わないのは当然かもしれない。
澤「実力で会長に認めてもらうしか、俺らは方法がないんですよ。だから練習して、とことん手を汚すしかない」
「澤村さん…。そんなこと考えて、仕事してたんだね。知らなかった」
澤「バレないようにやってますから。それに、努力は隠れてしないと」
すっかり萎んでしまった晃輝も、澤村さんの話を大きくゆっくり頷いて聞いている。