もう戻れない
「澤村さんって、結局どこにいたのか知ってる?」
貴「いや。沙和は知ってるんだろ?さっき車の中で聞いたんじゃない?」
「…察しが良いね。ちょっと仕掛けてみた」
もし本当に澤村さんが犯人なら、それに値する証拠がいる。今は全て推測。
貴「俺も協力できることがあったらするから。今は忙しくてここにいないことも多いけど、電話でもくれたらすぐ向かう」
「ありがとう、じゃあ帰るね。調べものができたし」
貴「おう。気をつけて帰れよ。晃輝くんも、沙和のことよろしくな」
晃「もちろんです」
貴裕に背中を思い切り叩かれた晃輝は、途端に背筋を伸ばして、表情も少しだけ這い上がってきたように感じた。尊敬する人の応援の力は大きい。
別荘を出て、玄関の前にある庭に仁王立ちしている澤村さんと目が合い会釈すると、足を揃えて深々と頭を下げてくれた。
「じゃあ晃輝、運転お願いします」
初めて別荘に来た時に、仕方なく置いていった晃輝の車の助手席に乗ると、ゆっくり進み出した。森を抜けるまでは長い。薄暗くて、たまに猿を見るほど奥深い場所。
そんな森に差し掛かった時、バックミラーに見えた私たちを見守る澤村さんの表情が焦りを見せると、同時に晃輝が急ブレーキをかけて大声を上げた。
晃「やばい!沙和さん逃げるよ!」
「え、何が?」
前を見ると、何台もの顔を隠した大型バイクが私たちの車をあっという間に包囲した。こうなるのは初めてで、戦闘体制を取るまでもなく不利な状況に。
遠くで、澤村さんが貴裕を呼ぶ怒声が聞こえる。私は、とにかく扉を開けられないように鍵を閉めたけど、そんなの窓ガラスを破られれば意味がない。
「晃輝、車バックで急発進して!」
シートベルトを外して対面で戦おうとしている、無謀な晃輝を止めて、車を下がらせる。すると、後ろにいたバイクにぶつかり、ガリガリという音を立てながら車は下がり続けた。
時間を稼がないと、先に相手の手が私に触れたら影宝会は終わる。どうなっても、やれることはやらないと。
別荘の前あたりまで下がると、澤村さんと声を聞いて出てきた貴裕が応戦して、バイクの主たちと殴り合いを始めている。車で轢いた人を除いても、十人近くはいる敵。その半数が澤村さんと貴裕に立ち向かう中、残りの数人が私を狙っていた。