もう戻れない
訓練するときに最初に教わることなのに、目の前の目的に飲まれて、焦っていた。ほんの小さな仕草も見逃さないように、見ていたはずなのに。
「あー…、そうだった」
頭を抱えて、また澤村さんに笑われる始末。〝笑わないで〟と怒ると、堪えようと笑いを引きずって涙目になる澤村さん。
澤「影宝会に入った頃の俺に似ていて、懐かしいです。俺もよく、言葉に流されてました。でも隠そうとすると、微弱ですけど体に力が入るんですよね。それを見つけた時は、やっと影宝会の一員になれた気がして、嬉しかったんですよね」
「そうなんだ。澤村さんも、嬉しいとかそういう感情あるんだね」
澤「一応、俺も人間なんで」
ここまで来たら、あとは嘘を見破っていくしかない。話は聞き続けながら、ふとした仕草から犯人を見つける。
珍しく笑ってくれる澤村さんも、もしかしたら仮面をかぶっているかもしれないけど、今日は疲れたから探るのもお休み。
澤「部屋へ戻りますか?」
「寝ないとね。でもあの部屋、広すぎて落ち着かない」
澤「程々に狭い部屋は、物置しかないですよ。そんな所に姫を寝かせたなんて知られたら、追い出されます」
「野宿の方が落ち着く。だったらここで寝て良い?澤村さんが近くにいてくれたら、圧迫感があって狭く感じるし、良いでしょ」
さすがに物置が埃もあって、寝られそうにない。リビングならと澤村さんも了承してくれたので、上掛け布団だけ持ってきて横になった。
「澤村さんは寝ないの?」
澤「沙和さんを守れるように、起きてます」
「さっきは寝てたんだし、その日にまた襲いに来るとかもないって」
澤「さっきのは小休憩です。あと、そういう油断が一番怖いんです」
「貴裕には言うなって言ってた人が、よく言うね」
目を瞑ったまま話していたから表情は見えなかったけど、澤村さんが近づいてくる気配がして、多分怒らせたんだなと察した。
澤「…姫という立場はずるいですね。同等であれば、首を絞めてました」
「抹殺?」
澤「お仕置きです」
首ではなく頬を軽く抓られて、驚いて目を開けると、〝俺が間違えて首を絞めてしまう前に、口と目を閉じてください。〟と無表情で淡々と忠告されたので、また大人しく目を閉じた。