もう戻れない
次目を覚ました時には、明るくて真っ青な澄んだ空が広がっていて、近くに澤村さんの姿がなかった。ソファからのそのそと起き上がると、〝おはようございます〟と無駄に元気の良い法戸くんの声が背中から聞こえる。振り向くと、探していた澤村さんもいて、一安心。
澤「沙和さん、ご飯食べましょう」
「準備してくれたの?…えっ、めっちゃ豪華」
一人暮らしの私では作らない、朝からかける手間ではない料理が出てきた。法戸くんと澤村さんが隣り合って座り、その向かいに私が一人座る。なんとも不思議な光景で、手を合わせてみんなで食べた。
「貴裕はいないの?」
法「僕と交代しました。貴裕さん、休みなしで見まわりしてもらってたんで、家へ帰ってもらいました。今日は僕と澤村さんでお守りします」
「そっか。ありがとう」
朝ごはんをこんなに優雅に食べたことはないし、コーヒーとパンで済ませている私からすると、ホテルの朝食のような華やかさがある朝ごはん。ナイフとフォークで食べるパンケーキなんて、お嬢様になった気分。
「…美味しすぎる。誰が作ってくれたの?」
法「僕です」
「影宝会の専属シェフになったら?」
澤「ほらな?言っただろ?」
照れる法戸くんと、自慢げに法戸くんを指差す澤村さん。何のことかさっぱり分からないけど、法戸くんが褒められて嬉しそうにしているのだけは、分かる。
澤「このパンケーキ、自信がなかったみたいで試食したんですよ。そしたらめちゃくちゃ美味しくて、沙和さんが食べたらきっと、シェフになれって言うよって話してたんです」
「うん、絶対シェフになれる。あ、私の専属になってくれる?」
法「やめてくださいよ…。沙和さんの頼みなら、いつでもご飯くらいは作りますけど、影宝会に身は売りません」
二人が楽しそうに仲睦まじく話しているのを見て、ほんの少し心が安らいだ。澤村さんの人間らしさが見れて、真犯人の疑念は消えた気がするし、アドバイスももらえたから、前に進める。
シェフは断られたけど、個別で料理はしてくれるらしく、犯人探しが落ち着いたら作ってもらう約束をした。
「今日は二人とも、一日いてくれるの?」
澤「えぇ、そうですよ」
「この家からは出られる?」
都合良く法戸くんと澤村さんがいてくれたので、立入禁止の事務所に連れて行ってもらうことにした。一人に対して警護が二人なら、あの事務所に向かっても、安心して中に入れる。
法「まだ調べ足りなかったですか?」
「うん…、答え合わせをしたくて」
澤「じゃあ答えは固まったんですね」
「ううん。全然分かんない。むしろ振り出し」