もう戻れない
藤「そういえば。沙和さんも晃輝くんも、何か用事があったんじゃないですか?」
藤吉さんの一言で全員がいかり肩になり、仕事モードに入ったのが分かった。私まで話す喉元に力が入る。唾を飲み込んで深く息を吸った。
「あのね。お父さんを殺したの、秀くんじゃないと思ってて」
法「えっ」
真っ先に反応したのは、秀くんを一番慕っていた法戸くんだった。戸惑いのような焦りのような。すぐに出した声を引っ込めて口を塞ぐ仕草も。
今は、この別荘にいる全員が怪しい。藤吉さんの妙な落ち着きも、澤村さんの私をじっと見つめる目も。貴裕が足を素早く組み替えたのも。一瞬も見逃さない。
「真犯人、見つけたいの。秀くんが無実だって、ちゃんと確かめたい」
晃「兄が殺されたのも、影宝会を裏切ったからじゃなくて、証拠消しのためじゃないかと思ってます」
早速、晃輝が爆弾を落とした。それはまだ、言わないでおこうと思っていたのに。この中に本当の犯人がいるとしたら、きっと裏で何かを仕掛けてくるはず。
見つかっていない証拠を消されたら、私たちまで抹殺されたら。その恐怖は晃輝にはないらしく、真っ直ぐ全員を見ていた。
藤「なるほど。で、晃輝くんは俺らの中の誰かが犯人だって言いたいんですか?」
鋭い目の藤吉さんが、探るような言い方で晃輝を睨む。ついでに私にもその視線が飛んできて、背筋が凍った。藤吉さんの予想は間違っていないから。
晃「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません。それを確かめるためにも、色々調べたいんです」
うんうんと頷く藤吉さんを見つめて、どんな返事がくるのか、冷や汗をかいて次の言葉を待つ。
藤「犯人探し、俺も協力しますよ。秀さんが会長を殺したのか殺してないのか、殺してないのなら誰が嵌めたのか。興味本位で真実を知りたいので」
貴「おい。親父が死んだのに、興味本位とか言うなよ。失礼だろ」
藤「すみません。でも嵌めている人がいるなら、その人の意図を知りたくないですか?」
貴「まぁ確かに…、そうだな」
貴裕から晃輝に視線が戻ると、〝協力させてください〟と鋭さの中にある柔らかな光を纏った目を向けてきた。
ようやく胸を撫で下ろす。でも罠の可能性もあるから、安心はしていられない。協力すると見せかけて、私たちの動向を確認したいのかもしれない。
晃「みなさん、よろしくお願いします。何か手がかりがあれば、俺か沙和さんに連絡をください」
貴「分かった」
法「…はい」
みんな反応してくれたのに、まだ何も話さず私をじっと見つめる澤村さん。挑発のようにも見えるし、何かを隠しているようにも見える。
今は、ここにいる全員が真犯人の可能性を持っている。どうやってあぶり出そうか。それとも消去法で見つけようか。私も全員を鋭い目で見まわした。