もう戻れない
「結局、見まわりは行ったの?」
法「はい。会長の指示ですから」
晃「どうしてそれを、俺たちに教えてくれたの?」
法「もしかしたら、会長は殺されることを分かっていて、僕を守ろうとしてくれたのかなって。それなら、前からトラブルがあった人が怪しいと僕なりに考えたので、お二人に伝えたくて」
地区争いは頻繁にあって、それがトラブルと言うなら数えきれないほどある。ただ、殺される予感がするほどのトラブルは、聞いたことがない。
晃「それ、あの家で言えたのに言わなかったのは、何か理由があるの?」
法「それは…。晃輝さんなら、言わなくても分かるでしょ」
晃「分かる。でも法戸くんの口から聞きたいから」
法「…怪しいと思う人がいるからです」
二人の間の駆け引きは、ハラハラする。探り合っていないと自分を保てないからだとは思うけど、法戸くんのあまりにも真剣で強張った表情と、晃輝の法戸くんを疑う光のない目が、思わず息が止まってしまうほどの緊迫感を演出している。
晃「…誰か言える?」
法「…確信はないので、言えないです。でもあの場で一度も話さなかった人がいたでしょ。いつもあんな無口じゃないから、何か隠してると思うんです」
一度も話さなかった人、一人いる。私を無言で見つめ続け、相槌さえもなかった人。澤村さんだ。私の前ではいつも無口だけど、優しさはちゃんとある。ただ、何を考えているか分からない、掴めない人でもある。
晃「何か、ね…」
法戸くんを信じるなら、澤村さんに話を聞くのも一つの手。それで新しい情報を入手できる可能性もある。晃輝と法戸くんのピリついた空気を破るように、わざと明るい声で割って入ってみた。
「法戸くん、教えてくれてありがとう。これから色々と探ってみるね。また何か思い出したら、教えて」
法「お力になれるか、分からないですけど…。あと、絶対に一人では出歩かないでくださいね。晃輝さんと一緒にいるか、僕を呼ぶかしてください」
「うん、分かった」
晃輝も、前のめりで丸くなっていた背中を車のシートに戻し、法戸くんもまた前を向いて車を走らせた。