京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 東京駅に着き、長旅の疲れがどっと押し寄せた。二日間ずっと歩き回っていたので、足が棒のようである。スーツケースを持ち歩いているので、これが邪魔で仕方ない。
 この後はどうやって帰るか考えるが、どう考えても電車に乗って帰るしかないので少しゆううつである。
 そんな風に悩んでいたら「寧々、こっち」と伊織に呼ばれ駅を出ると、伊織が既にタクシーを呼んでいたらしく、あれよあれよという間にタクシーに乗せられていた。

「伊織さん、準備よすぎない?」
「旅行って楽しいけどなんやかんやで疲れるやん? せやから、帰りはタクシー呼んだ方がええなおもたんよ」
「私の彼氏が頼もしすぎる」
「ふふ、そうやろ? 寧々はもっと俺に頼り」
「……うん、ありがとう」

 二十分ほど走ったところで寧々の家に着いた。伊織が荷物を持ってくれたおかげで、寧々は鍵を開けるまで手持ちバッグしか持たずに済んだ。

「寧々、また今度な」

 伊織は寧々の頬を指の背で撫でる。くすぐったくて気持ちいい。そっと離れていくその指が名残惜しい。

「またね」
「名残惜しくなるから、はようちに入り」
「うん」

 寧々は玄関のドアを開けて家の中に入る。締め切る前にばいばいと手を振ると、伊織も同じように返してくれた。
 鍵を閉めると伊織の靴音で遠ざかるのが分かった。タクシーに戻ったのだろう、車のエンジン音が聞こえこちらも音が遠ざかる。
 寧々は靴を脱いで家の中に上がった。

 楽しかった京都旅行は、楽しいものだけで終わらなかった。理沙という伊織の元恋人の話を聞いた時は胸が苦しくなった。伊織に結婚の約束をしていた女性がいたことなんて考えもしなかったし、その女性が亡くなっていたことも知らなかった。
 それでも、あの秘密主義の伊織が寧々と真剣に交際を考えたからこそ、過去を教えてくれたのだ。それは素直に嬉しいと思える。
 理沙に対する気持ちは複雑だが、それもきっと時間が経てば気持ちに変化が訪れるだろう。伊織の感情が恋愛から親愛に変わったように。
 だから、今はまだやきもちをやいても許されるだろう。
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