京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
「あんた、寧々と別れたんやから今は他人やろ。そんな人が夜遅くに女性の一人暮らしの家に訪問するんはどうかと思うで」
「うるさいな、あんたに関係ないだろ。これは俺と寧々の問題なんだよ」
突っぱねる拓也に伊織は不快感を露わにした。
「関係なくはないやろ。寧々の今の恋人は俺なんや、大事な恋人を守るのは理にかなってる。とりあえず、今日は帰ってもろてええ?」
「はあ? なんであんたの言うこと聞かなきゃいけないんだよ」
「恋人が元彼にストーカーされとるって通報してもええんやぞ。ヨリ戻そうとしてるんやろうけど、今の寧々の恋人は俺や。邪魔すんのやったら、徹底的にやるで」
凄みのある声と顔で高身長の男性が言うだけで恐ろしく感じる。それは拓也も一緒だったのだろう、腰が引けていた。
「……チッ、分かったよ」
「私には伊織さんがいるから拓也とはヨリ戻さないから。それに、拓也のこと大嫌いなの」
寧々からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう、拓也は悲しそうな顔をして「そうかよ」と小さな声で言った。
「そういうことなんで、さようなら拓也くん」
拓也の去り際につぶやいた「うさんくせえやつ」という言葉に、寧々はまたしても腹が立った。本当にあんな人ではなかったのに、何が彼をそうさせてしまったのだろう。
拓也が帰宅して、寧々はほっと息をついた。緊張感が漂う部屋で、伊織は何を思ったのだろうか。
「伊織さん、呼び出してごめんね」
「ええよ、寧々はなあんも悪くあらへんやん。元彼くんはどうやら寧々とヨリを戻そうとしてるみたいやね。ほんま、意味が分からへん」
「なんか、拓也は騙されてた? みたいで……」
寧々は拓也の身に起こったことを話し出した。
ユリという若い女性の妊娠は嘘だったこと、恋人のいる女から男を奪いたかったこと、拓也を金ヅルにしていたこと──。
「騙された拓也も悪いけど、ユリさんという人もなかなか悪どいをことをするよね……。もちろん、同情はできないけど」
「そんなん、全部拓也くんが悪いに決まってるやん。寧々は気にせんでええよ」
「……そうだよね、もう終わったことだし」
「こんなこと言いたないけど、俺は拓也くんが嫌いや。やることなすことの全部が無責任やし、寧々を傷つけた人でなしやからな」
「伊織さん……」
どこまでも寧々を想って言葉を言ってくれる伊織の優しさに、なんだか泣きそうになる。伊織の胸に抱きついた。そっと優しく抱きしめ返してくれる伊織に、力強く抱きしめ返した。
寧々には伊織という恋人がいて、その彼は寧々のことを全力で愛していることも伝わったはずだ。渋々といった様子ではあったが、自分の足で家から出て行ったしもう来ることはないだろう。
拓也は無条件で自分を愛してくれる人が欲しかったのかもしれない。そうでなければ、別れた元恋人のところにわざわざ来るなんてことはしないはずだから。
もう、終わった話なのだ。