京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 フードコートでお昼休憩をしていると、伊織がスマホを見てなんだか驚いている。なにかあったのだろうか。

「伊織さん、どうしたの?」
「場所が場所やから小声で言うわ。あのな、『きみが思い出になるまで』の映画化打診の話が来たんよ」

 『きみが思い出になるまで』は、伊織の実話をフィクションにして書いた物語だ。悲しい恋の結末は、思い出にすることで主人公が昇華するお話。
 それが映画化するということは、伊織の小説が世間に認められたということだ。

「おめでとう、伊織さん」

 寧々の気持ちとしては未だ複雑だが、この感情が別のものになる頃にはもう少し成長しているのだろうか。
 それでも、めでたいことには変わりない。寧々は再びおめでとうとお祝いをした。

「おおきに。まさか、こんな話が来るなんて思わへんかった。……俺はこの話を受けようと思うんやけど、寧々はどうや?」
「もちろん伊織さんを尊重するよ。私としてはまだちょっと複雑だけど、それは私の感情であって伊織さんの仕事には関係ないものだからね。だから、受けていいと思う」
「寧々……おおきに。俺、今、むっちゃ嬉しいわあ……」

 伊織は涙ぐんでいた。過去の出来事を思い出しているのかもしれない。今もなお伊織の心の中に在り続ける理沙が羨ましいと思うし、どうしても嫉妬してしまう。そう思うのは、まだ寧々が精神的に未熟だからなのかもしれない。

 自分が未熟だと分かっていても、伊織のことが好きだからそばにいたい。支えたい。愛しあいたい。それができるのは、生きている寧々にしかできないことだ。過去の人の理沙には、もう訪れることのない未来。そう考えると、申し訳なさで苦しくなる。
 こんなことをくり返しているとは、理沙は知る由もないのだろう。

 寧々は伊織にそっとハンカチを差し出した。それは、出会った時に伊織から渡された清潔なハンカチ。泣いてしまった寧々を慰めるためにわざわざ渡してくれた、あのハンカチだ。
 それを伊織が覚えていなくてもいい。今は、そばにいて支えたい。
 ハンカチを受け取った伊織は、わずかに微笑んで「あの時のやね」と言ってくれた。それだけで寧々は救われるのだ。
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