京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
「篠原ちゃん、聞いてる?」
「あ、ごめん! 考え事してた」

 岩澤に名前を呼ばれるまで気づかなかった。飲み会に参加しているのに、ぼーっとして伊織のことを考えていたなんて言いにくい。

「篠原ちゃん、清水さんのこと考えてたんじゃないのー?」

 岩澤の容赦ないツッコミに寧々は白状した。どうせごまかしても、勘のいい岩澤にはバレてしまうのだから。

「……うん、そうです」
「これはもう確実に恋だね」
「うん、恋だよ」

 恋。客観的に見ても、寧々はどうやら伊織に恋をしているようだ。なんだか無性に恥ずかしくて、寧々は俯いてしまう。

「ああ、ごめん! そんなに恥ずかしがることないって! 素敵なことだと思うよ」

 恋をするのは確かに素敵なことだと思う。
 だが、寧々が気にしているのはそこではない。

「……振られたその日に会った別の男の人に惚れるのって、変だと思いませんか?」
「篠原ちゃん……」

 寧々が気にしているのは、身勝手な生き方をしているように見えているのではないかということだった。拓也のことは到底許せないが、だからといって伊織に恋をするのはそれでいいのだろうかと悩んだりする。

 実際のところ拓也とは破局になったのだから気にしなくていいのだが、真面目なところがあるゆえに寧々は考えてしまっていた。

「恋は自由だよ、篠原ちゃん。拓也くんとは残念な結果になったけど、それはそれ。清水さんが魅力的な人だから、篠原ちゃんは次の恋にいけたんだよ」

 岩澤は寧々のよき相談相手なので、こうして悩む寧々の背中を押してくれる貴重な人だ。岩澤の言葉に寧々は自信を持って伊織のことが好きだと言ってもいいのかもしれないと思えるようになってきた。
 寧々は伊織との関係を意味のあるものにしたかった。
 だから、うだうだと考えてしまったのだろう。

「……そうだよね、次にいっても、いいよね」
「そうそう! 女は度胸だよ!」

 岩澤と先輩はにっこりと微笑んで寧々を応援してくれた。
 それならば、前を向いていよう。恥ずかしくない人間であるために。

 飲み会は寧々にとって有意義な時間をもたらしてくれた。少しずつ、伊織にアプローチしていこう。
 だって、寧々は伊織のことが好きなのだから。
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