京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 自動販売機があったので、寧々と伊織は雰囲気に合わせて緑茶を購入した。
 近くにあったベンチで腰を下ろし、二人並んで座る。ペットボトルのキャップを開けて緑茶を飲む。のどが渇いていたので潤いが心地いい。
 のどかな気分で休憩をしていると、顔に冷たい雫のようなものが落ちてきた。指先で確認すると、やはり濡れている。顔を上げるとぽつぽつと雨が降ってきたのが分かった。

「寧々ちゃん、すまへん、雨が降ってきてもうた、移動しよか」

 今日の天気予報は一日晴れだったのに、梅雨という季節柄雨が降ってきてしまった。
 寧々は念の為折りたたみ傘を持ってきていたので、バッグから取り出して傘を広げる。

「清水さん、中に入って」
「おおきに。入れさせてもらうわ」

 寧々より頭一つ分背の高い伊織が小さい折りたたみ傘の中に入るだけで一気に狭くなる。二人とも大の大人だし何より伊織は男性だ。それだけで幅が取られる。
 寧々はせめて伊織の肩が濡れないようにと持ち上げて傘を斜めにすれば、そっと伊織の手に取られてしまう。
 伊織に視線を向ければ柔らかい微笑みが返ってきたかと思えば、ぐいと肩を抱き寄せられた。何事かと目で訴えても、優しい笑みを浮かべるだけ。

「傘くらい持たせてや。それと、女の子が身体を冷やしたらあかんで。もっとこっておいで」

 小さな傘の中で、男女が肩を寄せ合う。触れているところはじんわりとぬくもりが伝わってあたたかい。声も響いて耳に届くから心臓に悪い。
 好きな人に肩を抱かれるのはこんなにドキドキするのだと、乙女心が久しぶりに疼いて胸は高鳴る。
 伊織がそれを分かってやっているのなら、タチが悪いと思う。こんな風に好きな人から思わせぶりな態度をとられたら、簡単に女の子はときめいてしまうのだから。

「ここの近くに喫茶店あるんやけど、雨やどりがてらお昼ご飯食べに行かへん?」
「……うん、そうしようか」

 この状況にドキドキしてうまく話せない寧々に、伊織は目線を下げてちらりと寧々の様子を伺うように見てきた。

「寧々ちゃん、どうしたん?」

 ここはなんていうのが正解なのだろう。寧々は答えを求めて考えあぐねる。

「もしかして、ドキドキしとる?」

 言い当てられて寧々は肩が跳ねた。
 それを見た伊織はくすくすと笑う。低い声で「かわええよ、寧々ちゃん」なんて耳元で言われたら、もう成す術などないだろう。
 寧々は顔に熱が熱くなるのを感じ、今度こそ無口になるが伊織はそれ以上何かをしてくることはなかった。
 それを寂しいと思うほど、心は伊織に捕まってしまっているのだ。

 雨がしとしと降る中、二人は無言で道を歩く。傘の中は雨の音が響き、それもまた心地よかった。
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