京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
「もう! 笑うことないでしょ!」
「すまん、えらいかわいらしくて」
「か、かわいい!?」
「そうやで、寧々ちゃんはかわええよ」

 面と向かってかわいいと言われたのは、いったいいつ以来だろうか。少なくとも、元恋人の拓也からはそんな風に言われたことがなかったなと頭の片隅で思い出した。
 黙ってしまった寧々を不思議に思った伊織は電気をつけて「どうしたん?」と優しく声をかけてくれた。

「ううん、なんでもない。ちょっと嫌なことを思い出しただけ」
「かわええ言われて嫌なことを思い出したん? なんやそれ、寧々ちゃん大丈夫なん?」
「うん、大丈夫だよ。ただ、元彼の拓也は私のことかわいいって言ってくれなかったなーって」
「なんや、ほんまに嫌な男やね。そんな男さっさと忘れた方がええよ」

 不愉快さを隠さずに、伊織は眉根をひそめた。ミステリアスで秘密主義の伊織だが、きちんとした考えをもっている倫理観のちゃんとした人なので、不誠実な拓也のことを嫌っているのがありありと伝わってきた。

「……寧々ちゃんは、まだ元彼くんのこと好きなん?」

 そっと伺うようにして、伊織は聞いてきた。
 どうしてそのようなことを気にするのだろう。そんなこと言われたら、嫌でも期待してしまう。

「そんなことないよ! そりゃあ振られた時は悲しかったけど、今は憎さの方が勝ってるし……。私の中では過去の出来事だから、もう大丈夫だよ」
「……ほんまに?」
「うん、本当」
「それならよかった」

 よかったとはどういう意味でよかったのだろうか。聞いてもまたはぐらかされそうで、聞くに聞けない。
 寧々は曖昧に笑ってその場をごまかすことにした。
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