京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 待ち合わせ場所まではもちろん電車だ。夏祭りに行くであろう人で混雑している。友達同士楽しむ人、家族、恋人や夫婦で来ている人など様々なようで、みんな今日という日を心待ちにしていたに違いない。

 待ち合わせ場所まで着くと、相変わらず時間より前に来ている伊織の姿があった。彼も浴衣を着ているようで、ネイビーのシックな浴衣は大変にあっている。センターパートの髪はワックスで固められており、パキッとした印象に見える。

 そして、いつもの通り女性に囲まれていた。伊織にしては珍しく無視を決め込んでいるようで、寧々が近づいて「清水さん」と声をかけると、こちらに気づいた伊織が柔らかい笑顔を向けてくれた。

「こんばんは、寧々ちゃん。待ってたで」
「遅れてごめん」
「いや、俺が早すぎるだけやから。そういうことやから、あんたら離れてくれへん? 俺は寧々ちゃんとデートなんよ」

 寧々が来て様子を伺っていた女性三人組は、苛立たしげにそう言う伊織に戦いて小走りでどこかへと消えて行った。

「清水さん、今のはちょっとだめかも」
「なんで? 寧々ちゃんは嫌な気せえへんの?」
「いや、もちろん嫌なんだけど……。でも、あの人達がちょっと可哀想だったから」
「……ふうん。ほんま、寧々ちゃんはおひとよしやね」
「おひとよしではないと思うけどなあ」
「まあ、俺には寧々ちゃんだけやし、それを寧々ちゃんも分かってくれてたらええわ。ほな、行こか」

 伊織は寧々の手を取って歩き出した。今まで数回ほどデートをしてきたが、手を繋いで歩いたのは初めてだ。緊張で手汗をかいてしまいそう。
 気持ち悪いと思われたら嫌なので、寧々はそっと手を引き抜こうとしたら、強い力でぎゅうと握られてしまった。

「離さへんよ」

 流し目で見られて、寧々はドキドキする。
 こくこく頷くと、納得してくれたのか握る手が優しい力加減に変わった。
 珍しく二人の間に沈黙が落ちる。それが気まずいというわけではないが、高鳴る心臓の音を気づかれてしまいそうで、寧々は「そういえば」と話題を振った。

「清水さんも浴衣なんだね。すごく似合ってるよ」
「おおきに。寧々ちゃんはえらいかわいらしいで。今日のためにあれこれ準備してくれはったんやなあって分かるのも、ほんまにかわええ」

 伊織は繋がれてないもう片方の手を口元に寄せて、くすくす笑っている。はんなりとした京男子は、そういう艶やかな仕草がよく似合う。
 伊織はくすくす笑いながら寧々の手を引いた。繋がれた手は熱を帯び、火照る身体はじんわりと熱い。
 そして、伊織は意味ありげに視線を寄越し、とどめの一言を添えた。

「ほんまに、あじさいが"好き"なんやね」

 それから二人はしばらく無言のまま歩いた。ごきげんな伊織と、恥ずかしくてそれどころではない寧々の妙な二人組だったが、熱気と喧騒で浮くことはなかった。
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