京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
「……清水さん、あんなに金魚すくいやる気満々だったのに、あんまり得意じゃなかったんだね」
「夏祭りといえば、やっぱり金魚すくいだと思わへん? やるのは好きなんやけど、寧々ちゃんの言う通り得意ではないんよ」

 動揺を悟られないように普通を振る舞っているが、きっと伊織は気づいているのだろう。素知らぬ顔をしながら自分に恋をしている女の手を引いて、伊織は寧々をどうしたいのか。

「……清水さんはさ、恋人いるの?」
「それが今日のデートの質問でええの?」
「うん」
「俺に恋人はおらんよ」
「そっか。ありがとう」

 恋人はいないことが確定した。伊織が遊び人じゃなくてよかったと、寧々は心から安堵する。

「……こうして遊ぶのは、私だけ?」

 いつもなら絶対に二問目以降の質問には答えてくれない伊織だから、期待はしないでおこう。そう思っていたのに。

「そうや、寧々ちゃんだけやで」

 にこりと微笑まれ、寧々は胸が高鳴る。欲しい言葉はくれないくせに、期待させることばかり上手なずるい人。

「寧々ちゃん、次どこ行く?」
「……食べ物がいいかな」
「ん、分かった」

 寧々は繋がれている手をきゅっと握った。離さないと言ったのだから、せめて今日だけはこのまま離さないでいてほしい。
 そんな寧々の願いが通じたのか、伊織は痛くならない程度の強さで握り返してくれた。

 二人はしばらく無言のまま歩き続ける。
 気になる屋台があればそこに行くというやりとりを何度かくり返し、気づけば二時間ほど経っていた。

「一通り見ることができたし、そろそろ帰ろうか」
「そうやね。あまり遅くなっても帰るのが大変やし、今日は帰ろか」

 繋がれた手はそのままで、駅まで歩き出す。
 同じように手を繋いでいる人達は、寧々と伊織と違い恋人や夫婦だったりするのだろうか。
 今までのデートと違いぐっと距離が縮まったはずなのに、心の距離だけはどこか離れたまま。伊織に近づきたいのに、どうしてか近づけない。もどかしくて苦しい。
 勢いそのまま好きと言っても、きっと今のままでは受け入れてもらえない。そんな確信めいた何かが寧々を躊躇させる。
 繋がれた手は胸が苦しくなるほどあたたかった。
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