京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜

伊織の過去と、進むべき未来

 それからバスに乗るまでの間、伊織が理沙という元恋人について話してくれた。


 理沙が亡くなったのは、今から五年前のこと。
 大学を卒業しても作家になる夢を諦められなかった伊織は、日中はアルバイトをしながら夜は原稿を書きまくるという二重生活を送っていた。

 大学生の頃から男女交際をしていた理沙とはいずれ結婚したいという願望はあったが、自分の夢を諦められなかったので普通の人としての生活を送るよりも、アルバイトをしながら作家になることだけをひたすら考えていた。

 そして、恋人の理沙は突然病気で亡くなった。結婚の約束をしていたのに、病魔に勝てず儚くなってしまったのだ。
 どちらが悪いというわけではない不幸な悲しい出来事は、結果として伊織のしこりとなった。

 理沙の体調不良も最初はただの風邪だった。
 なんの因果かそれが悪化してしまい、元々身体の弱い理沙は入退院をくり返すようになった。
 約束していた結婚も完治するまではと延期になり、結局結婚できないまま。

 理沙の親は大事な娘を不安定な職に就いている伊織に任せられないという理由で、結婚を反対されていた。
 そんな中、理沙が死んでしまったものだから、余計拗れてしまった。
 しかし、亡くなってからも足繁く通う伊織にとうとう心を動かされた両親は「娘のことを想うなら、君の人生を生きなさい」と言われたのだ。

 それから一念発起して関東に引っ越した。がむしゃらに物語を書きなぐった。
 そして、その時理沙のことを想って書いた小説が、寧々の一番好きな物語である【きみが思い出になるまで】だった──。
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