京都弁男子に溺愛されています〜憧れの小説作家は気になる彼でした〜
 喧騒から離れたところは静かすぎて落ち着かない。それも仕方ないのかもしれない。伊織に連れられてきた場所は、喧騒とは程遠いお寺だったのだから。
 お墓の前には先ほどの女性が来ていたことを表すように、仏花が供えられていた。寧々と伊織は手を合わせ、仏花を添えた。
 伊織はしゃがみ込み、優しい声で「理沙、久しぶりやね」と話し出した。

「この子は篠原寧々ちゃん。……俺の好きな人で、なんと俺のファンなんやって。ありたがいよなあ」
「はじめまして、篠原寧々です。今日は清水さんと一緒に来ました。よろしくお願いします」

 寧々は理沙の墓前にお辞儀をした。

「今日は理沙に報告があるんよ。俺、寧々ちゃんと付き合うことにしたんや。俺も新しい人生見つけたから、理沙に背中を押してくれると嬉しい。それを言いにきてん」
「清水さん……」
「寧々ちゃんはほんまにええ子でな、俺がそばににいて支えたいって思えた初めての女性なんよ。……せやから、理沙、今までほんまにありがとう。どうか俺達のこと、祝福してほしい」

 伊織は立ち上がって、理沙の墓前に頭を下げた。寧々もそれにならうように、再び頭を下げる。

 何秒経ったのか分からないが、二人の頬を優しく撫でていく風が吹いた。それは、まるで人に撫でられたような、そんな優しい肌の感触がしたのだ。

 二人は驚いて顔を上げる。
 そして、お互いを見つめ合い、今の穏やかな風は理沙なのではないかと思った。伊織もきっと同じことを考えているのだろう。とても優しい瞳で寧々のことを見つめてくれたのだから。

 住職の方にあいさつをしてから、バス停までの道のりを手を繋いで歩く。そこに会話はなかったが、気まずさなどはなくただ優しい時間が流れていた。
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