総長の愛が、重すぎる
そのまま店を出て、人気の少ない建物の裏手まで来たところで、ようやく蓮が足を止めた。

ひまりの手を引いたまま、蓮は何も言わない。

ただ、強く握られた指先だけが感情を伝えてくる。

「怒ってる?」

ひまりが小さく聞くと、蓮はしばらく黙ってから答えた。

「怒ってる」

「やっぱり……」

「そいつにじゃない」

ひまりは目を瞬く。

蓮は苦しそうに眉を寄せた。

「余裕ない自分に腹立つ」

思ってもみなかった言葉に、ひまりは息をのんだ。

「話しかけられただけなのに、あいつのこと殴りたくなった」

「れ、蓮」

「おまえ悪くないってわかってる」

蓮はそう言いながらも、ひまりを見つめる目をそらせない。

「でも、笑ってた」

「え」

「知らない男に」

ひまりは一瞬ぽかんとして、それから慌てて首を振った。

「あれは困ってただけで……」

「わかってる」

「なら」

「わかってても嫌なんだよ」

低い声が胸に落ちる。

蓮はひまりの手を引いて、自分のすぐ前まで寄せた。

逃げられないほど近い。

でも怖いわけじゃない。

その目の奥にあるのが怒りだけじゃなく、不安だとわかるから。

「俺以外に、あんなふうに笑わないで」

あまりにまっすぐな独占欲に、ひまりの顔が熱くなる。

「そんなこと言われても……」

「無理なのはわかってる」

蓮の指が、ひまりの頬に触れた。

「でも言う。彼氏だから」

心臓が跳ねる。

「今日ずっと、浮かれてた」

「浮かれてたの?」

「初デートだし」

そんなふうに言う蓮が、少しだけかわいくて、ひまりは思わず笑ってしまった。

すると蓮の目が細くなる。

「今のはいい」

「え」

「その笑顔は俺に向けたやつだから」

ひまりはもう何も言い返せない。

蓮はしばらくひまりを見つめていたけれど、やがて観念したように息を吐いた。

「……ごめん。重いよな」

ひまりは小さく首を振る。

「ちょっとだけ」

「否定しねぇのかよ」

「でも」

ひまりは勇気を出して、そっと蓮の服の裾をつかんだ。

「うれしいとも思ってる」

その瞬間、蓮の表情が変わる。

驚いて、次に熱を帯びて、最後にはどうしようもなく甘くなる。

「ひまり」

名前を呼ばれただけで、胸がいっぱいになる。

「そんなこと言うと、ほんとに止まれない」

「……もう遅いかも」

ぽつりと返すと、蓮が息を止めた。
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