総長の愛が、重すぎる
おうちデートから数日後。

ひまりは昼休みの中庭で、ひとりベンチに座っていた。

本当は蓮とお昼を食べる約束をしていたのだけれど、今日は担任に呼ばれて職員室へ行っている。

春のやわらかい風が吹く中、ひまりはぼんやり空を見上げた。

すると、足音が近づいてくる。

「こんなとこにいた」

顔を上げると、そこにいたのは悠真だった。

いつもみたいに明るく笑っているのに、今日はその笑顔が少しだけ静かに見える。

「蓮は?」

「先生につかまってる」

「そっか」

悠真はそう言うと、ひまりの隣に腰かけた。

少しの沈黙。

それだけで、いつもと空気が違うとわかる。

「悠真くん?」

「ねえ、ひまりちゃん」

その呼び方が、いつもよりやさしい。

ひまりが見つめ返すと、悠真は困ったように笑った。

「俺さ、応援しようと思ってたんだ」

「え」

「総長とひまりちゃん」

胸が小さくざわつく。

悠真は前を向いたまま続けた。

「総長が本気なの、最初からわかってたし。ひまりちゃんが総長見てるのも、知ってた」

明るくて、軽そうで、いつも場を和ませる悠真が、こんなふうに静かな声を出すのは初めてだった。

「だから、ちゃんと引こうと思ってた」

ひまりは何も言えない。

そんなひまりの手前で、悠真はぎゅっと拳を握る。

「でも無理だった」

風が止まった気がした。

悠真がようやくひまりを見る。

その目は笑っていなかった。

「好きなんだよね、俺も」

ひまりの呼吸が止まりそうになる。

「悠真くん……」

「困らせたいわけじゃない」

すぐにそう続けた声が、逆に切なかった。

「でも、黙ったままいい人ぶるほうが、たぶんもっとずるい」

ひまりはスカートの上で手を重ねる。

胸が苦しい。

悠真の気持ちはうれしいわけじゃない。だけど軽くもできない。本気だとわかってしまうから。

「ひまりちゃんといると、楽しくて、可愛くて、放っておけなくて」

悠真は少しだけ笑う。

「気づいたら、総長に譲りたくないって思ってた」

そのときだった。

「譲らなくていいなんて、誰が言った」

低く張った声が割って入る。

ひまりが振り向く。

そこにいたのは、蓮だった。

職員室から戻ってきたばかりなのか、制服のネクタイが少しゆるんでいる。けれどそんなことより、目が怖い。

悠真もベンチから立ち上がる。

「聞いてた?」

「十分すぎるほどな」

蓮はひまりの前まで来ると、そのまま当然のように肩を抱き寄せた。

まるで牽制そのものだった。

「こいつは俺の彼女だ」

「知ってるよ」

悠真の声から、いつもの軽さが消えていた。

「知ってるけど、好きになるのは止められない」

空気がぴんと張る。

蓮の腕に力がこもるのがわかった。

ひまりは思わずその制服をつかむ。

「れん……」

「大丈夫」

そう言う蓮の声は、全然大丈夫じゃない。

視線はまっすぐ悠真に向いたままだ。

「本気で言ってんのか」

「言ってる」

悠真も引かなかった。

「総長が相手でも、気持ちまでなかったことにはできない」

その言葉に、蓮の目が細くなる。

怒っている。

でもそれだけじゃない。

焦りと不安が混じった、見たことのある顔だった。

「ひまり」

蓮がひまりの名を呼ぶ。

低くて、少しかすれていて、助けを求めるみたいな声だった。

ひまりは胸がきゅっと痛くなる。

蓮は強い。

でも今は、きっと強くなんかない。

ひまりはそっと蓮の腕に触れ、それから悠真を見た。

「悠真くん」

声が震えないように、ちゃんと息を吸う。

「言ってくれてありがとう」

悠真の目が少し揺れた。

「でも、ごめん」

短いそのひと言が、いちばん残酷だとわかっていた。

それでも、ちゃんと伝えたかった。

「私は蓮が好き」

はっきり言うと、蓮の腕がわずかに震える。

悠真は数秒黙ってから、ふっと息を吐いた。

「だよね」

笑おうとして、少し失敗したみたいな顔だった。

ひまりの胸が痛む。

けれど悠真は、自分でその空気を壊すみたいに肩をすくめた。

「ちゃんと振られた。これであきらめるしかないか」

「悠真……」

「でも少しくらい落ち込ませて」

そう言って笑った悠真は、やっぱりやさしかった。

そのやさしさが、ひまりには余計切ない。

悠真がその場を離れようとしたとき、蓮が低く声をかけた。

「悠真」

足を止めた悠真は、振り返らない。

蓮は少しだけ黙ってから言った。

「悪い」

そのひと言に、悠真が小さく笑う。

「ほんとだよ」

でも怒ってはいなかった。

「ちゃんと幸せにしてよ、総長」

そう残して、今度こそ去っていく
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