雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

 エノレアは力強く頷く。

「ははっ、そうだね。……エノレアが貴族令嬢だったらよかったのですが……」

 エドガーがぼそりと呟いた言葉は、小さすぎて聞き取れなかった。

「今、なんて?」
「いや、なんでもありません。殿下の未来が幸せに満ちたものであることを祈っただけです」
「なるほど。では、私も一緒に祈ります」

 エノレアは朗らかに微笑んだ。


 その翌日のこと。
 オリバーと話をしていたエノレアは、書類を捲る手を止めた。

「ロングレイン侯爵令嬢が、青嵐宮へ?」
「うん。リリアナ・ロングレイン侯爵令嬢だよ。何日か前に、エドガー様から準備を整えるように指示されたんだ。近いうちに、青嵐宮へ上がる予定」
「上がるってどういう意味?」
「レニオス様の専属侍女として、お仕えするんだよ」

 エノレアは目を瞬かせる。

「侯爵令嬢が侍女に?」

 エノレアの知る限り、侍女は求人の募集を見た平民や低位貴族がお金を稼ぐためになるものだ。

「高位貴族の令嬢が、王族に侍女として仕えて行儀見習いすることは珍しくないよ。将来、王族や上位貴族へ嫁ぐための経験になるからね」
「そうなのね。知らなかったわ」
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