雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
片田舎の村で育ったエノレアは、貴族社会に詳しくない。青嵐宮で働き始めてからだいぶ詳しくはなったが、高位貴族特有の習慣となると知らないことのほうが多かった。
「もっとも、今回は単なる行儀見習いじゃないと思う」
オリバーが声を潜める。
「何か事情があるの?」
「ロングレイン侯爵家はリーヴ有数の名門家門で、王太子選出に影響力を持っている。現在レニオス殿下に近いが、完全に支持を固めているわけじゃない」
「つまり、ロングレイン侯爵家との関係を深めるために受け入れるってこと?」
「うん、そういうこと」
オリバーは頷いた。
この国の王太子は国王が決めるが、完全に国王の一存で決まるわけではない。
王子たちの実績や能力を踏まえた上で、最終的には議会の承認を得て選出される。そのため王子たちは、国王に認められるだけでなく、議員や有力貴族からの支持も集める必要があるのだ。
「それに、リリアナ嬢はレニオス殿下の妃候補の筆頭だしね。専属侍女になればお手付きになることが多いし、もうほとんど確定じゃないかな」
その言葉を聞いた瞬間、エノレアの胸がざわめいた。
「……妃候補?」
「そう。年齢も家柄も申し分ないし、ロングレイン侯爵家としても殿下との縁談を望んでいるみたいだよ」
「そう、なんだ」