雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!


『毒だわ!』
『この子がやったのよ!』

 激しく叱責する声と共に視界に映るのは、芝生の上に転がる割れたカップだ。そして視界が切り替わると、どこまでも雪景色が広がっていた。

 脳裏に浮かぶ光景はどれも断片的で、誰の記憶なのかすら分からない。
 その夢を見るときまって、胸の内に絶望感が押し寄せる。

(そういえば、あの歌。どんな歌詞だっけ?)

 夢の中のエノレアは、よく歌を歌っていた。確か──。

「月のしずくに赤い実ひとつ 白き大地の眠り草 金の花びら銀の糸 めぐる季節を待ちましょう──」

 口ずさんで、違和感を覚える。

(この歌って──)

 そのとき、頭上から「エノレア」と呼ばれる。ハッとして顔を上げると、そこには眉根を寄せたレニオスがいた。

「本調子でないと聞き見に来てみれば……真っ青じゃないか」
「申し訳ございません。もう二、三日すれば──」
「しばらく田舎の実家に戻れ」

 エノレアは、驚いてレニオスを見返す。

「実家に?」
「ああ。明日以降、出仕は禁止する」

 エノレアは目を見開いた。
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