雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

「あのね、青嵐宮で毒物混入事件があったの。レニオス殿下を狙ったものだったのだけど──」
「毒?」
「うん。たまたま花弁が混入しちゃってレニオス殿下はそれを飲まなかったんだけど、高級紅茶を捨てるのはもったいないからって使用人が勝手に飲んだみたいで。私はたまたま悲鳴を聞いて、倒れている現場に駆け付けたの」

 エノレアは、あの日あったことを順番にガレスに告げてゆく。ガレスは静かにエノレアの言葉に耳を傾けていた。

「ブラックリリーか。よく解毒方法を覚えていたな。じゃあ、使用人は助かったんだな?」
「うん。お父さんが事前に教えてくれていたおかげだね。だけど──」

 エノレアは、そこで言葉を止める。

「そのあとから、変なの」
「変?」
「よく分からないの。あの現場にいたら、急に頭の中に知らない景色が浮かんできて……」

 エノレアは俯く。

「芝生に転がるカップとか、右往左往する人たちとか……。それで、周囲の大人が私が毒を入れたって糾弾してくるの」

 ガレスは黙って聞いていた。

「その景色が浮かぶと、すごく怖くなるの。まるで、この世の終わりみたいな絶望感に襲われて──。上手く息を吸うことすらできなくなる」

 エノレアは胸元を押さえる。
 あの恐怖を思い出し、指先が震えた。

「そうか。大変だったな」

 ガレスはそう言うと立ち上がり、部屋の隅に置かれた棚の引き出しを開けた。
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