雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

6-2


   ◇ ◇ ◇


 森の夜は、静寂に包まれている。
 リビングから続く部屋のドアをそっと開けて中を覗くと、エノレアはベッドに横たわり安心したように眠っていた。

(少しだけふっくらしたか? 飯がうまいって言ってたもんな)

 エノレアからは定期的に手紙が届いていて、そこには『ごはんが美味しい』とよく書かれていた。それに、今日もごはんが美味しいと何回か言っていた。
 きっと、よほど青嵐宮の食事が気に入っているのだろう。

 そのほかにも、エノレアは色々なことを手紙で知らせてくれたし、今日も話してくれた。

 歴代最高点で文官試験に合格したこと。
 優しくて尊敬できる同僚がいたこと。
 仕事はとても忙しいけれど、毎日が楽しいこと。

 話しているときの表情を見れば、とても充実した日々を過ごしていることがわかった。それだけに、急に自宅療養しなければならないほど精神的ショックを受けたという毒物混入事件のことが気にかかる。

 ガレスはリビングに戻ると椅子に座り、拳をぎゅっと握る。
 雪山で拾ったばかりのころ、エノレアは高熱にうなされながらも何度も同じ言葉を口にしていた。

『違うの』
『毒なんて入れてない』
『信じて』

 懇願にも似た悲痛な訴え。
 しばらくしたら落ち着いたと思っていたが、深層心理ではまだ忘れることができずにいるのだろう。
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