雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

 それどころか、今回のことで、エノレアの昔の記憶が欠落しているのは辛すぎる過去を忘れて自分自身の精神状態を正常に保とうとする、自己防衛反応なのではないかと思った。

「俺の可愛い娘をこんなに怖がらせるとは、ただじゃおけねえな」

 ガレスはぼそりと呟く。
 相手が誰であろうが、娘のためなら容赦する気はない。完膚なきまでに叩きのめす。

 それと、気がかりなことがもうひとつ──。

『レニオス殿下のもとでずっと働きたいって思うし、レニオス殿下が一緒にいると、すごく安心する』

 そう言ったときの、エノレアの表情。
 頬がほんのりと赤く染まり、うっとりした顔をしていた。
 色恋沙汰にあまり興味のないガレスでもわかる。本人は無自覚だが、エノレアは恋をしている。
 
(なんてこった。俺の娘が、第三王子に惚れてやがる)

 娘の心を奪うとはけしからん野郎だと思う一方、ここまで娘を惚れさせるとはどんなにいい男なのかと興味深くもある。ただ、問題なのは相手が王族ということだ。
 
 王子であれば、いずれは他国の王女または国内の貴族令嬢と結婚する。エノレアが最終的には失恋するのが目に見えていた。

 だがそれでも……あんな幸せそうな顔をするエノレアを想えば、一日でも長くその幸せが続けばいいと願うのが親心というものだ。

「暗殺されそうになったって話だったな」

 愛する人が誰かに暗殺されて涙を流す娘の姿など、見たくない。

 ガレスはピーッと口笛を吹く。すると、どこからともなくフォレストの使い魔が現れた。

「フォレスト、応答せよ。こちらコードネーム『伐採(リーパー)』」
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