雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

「そうか、いい名前だな」

 エノレアは無言で頷く。
 男はロケットを閉じると、エノレアに返した。

「よし、エノレア。お前のことは俺が拾ったから、責任を持って面倒を見てやる。だから、ちゃんと食って元気になれよ」
「……いいの?」
「いいから言ってるんだろ。それとも、俺の世話になるのは御免だってか?」
「ううん、違う!」

 エノレアはぶんぶんと頭を横に振る。

「じゃあ、決まりだ」

 男はにっと笑うと、エノレアの頭をがしがしと撫でる。
 乱暴なのに、とても優しい手だった。


 エノレアがここに来て三ヶ月ほどが過ぎた。
 男の名前はガレス・グレイと言って、山の麓にある小さな家でひとり暮らす木こりだった。雪山に木を伐りに行った帰り道にエノレアを発見し、救出したのだという。

 この日、ガレスが仕事をしに山に行ってしまったので、エノレアはひとりで留守番をしていた。

「えーっと、この記号とこの記号が一致しているから──」

 エノレアは、ノートに書かれた、一見すると意味の分からない数字と記号の羅列を眺める。
 そのとき、カランコロンとドアの開く音がした。

「ガレスさん、お帰り!」
「ああ、ただいま。……何して過ごしてた?」
「これで遊んでた」

 エノレアは使い古したノートをガレスに見せる。
 これは、ガレスがエノレアにくれたクイズ帳だ。
 一見何の意味もなさないような記号や表面的にはただの挨拶文が、実は別の意味を持つという変わったクイズがたくさん載っている。

「またそれか。随分気に入ってるな」
「うん。見て、見て。もう三つ目が解けたんだよ」
「おー、そりゃすごいな。数年もしたらなんでも読めるようになりそうだ」

 ガレスはハハッと笑う。
 エノレアは褒められて嬉しくなり、満面の笑みを浮かべる。
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