雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
(こいつは……)
人生で一度も食べたことがないような、なんとも言えない苦みが口の中に広がった。任務中に食べ物が枯渇して芋虫を食ったときでさえ、ここまで酷くはなかった。
「エノレア」
「うん」
「よく聞け」
「うん?」
頑張って作ってくれたエノレアを傷つけたくはない。しかし、ガレスにはエノレアの保護者として、彼女をまっとうな人間に育てる義務がある。
「まず、食事を作ってくれたことには深く感謝する」
「うん!」
「だが、これは人が口にしていいものじゃない」
「えっ!?」
思いもよらない言葉だったようで、エノレアは衝撃を受けたように目を見開いた。
「食べられない?」
「数々の鍛練によって鍛えぬかれた俺の胃は大丈夫だ。だが、凡人が食べたら三日は寝込む」
「寝込む? 疲労回復なのに?」
「疲労は感じなくなるだろうな。だが、同時に意識もなくなる」
「そんな……」
相当ショックだったのか、エノレアは呆然とした様子だ。
ガレスはごほんと咳払いする。
「まあ、食えないことはない。料理なんて、胃に入れば全部同じだからな」
自分で言いながら、慰めているのか、けなしているのかわからなくなる。
しかし、事実としてエノレアのこの料理はあまりにも酷い。料理が苦手であると自覚しているガレスから見ても酷すぎる。
「……本当にそんなに美味しくないの?」
エノレアは納得いかない様子だ。
目の前に置かれた椀を両手で持つと、スープを一気に飲み干した。
「あっ! お前、バカっ!」
ガレスは焦って立ち上がる。
あまりのまずさに卒倒したエノレアは、以来、薬草だけは絶対に料理に投入することがなくなったのだった。