雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「あー、わかったよ。暫く木こりの仕事を休みゃいいんだろ」
「その通り! その間は、私が木を切るから安心して」
「は?」
ガレスはびっくりしたようにエノレアを見る。
「なんでお前が木こりの仕事をするんだ!」
「だって、お父さんが働けないし、私がやるしかないじゃない」
「却下だ! 大事な娘に木こりなんてさせられるか! 熊が出たらどうするんだ!」
「熊なら退治するから大丈夫」
エノレアは自信満々に自分の胸を拳で叩く。熊なら通学途中に何回か遭遇したが、全てひとりで退治した。
「迷子になるかもしれねえ」
「星読みの仕方を教えてくれたから大丈夫よ。それに、遭難したときの対処法も知っているし」
「怪我をしたら──」
「怪我の応急処置もできるし、薬草も見分けられるわ」
「……とにかく、ダメなものはダメだ!」
「でも、生活に困るでしょ?」
「貯金はある!」
自信満々に言い放ったガレスの言葉を聞き、エノレアはスッと目を眇める。
貯金。そんなものがあるとは到底思えない。エノレアは十五歳になった頃からこの家の家計簿を任されているが、毎月収入と支出がほぼ同額だ。
「おい、エラ。お前信じていないな? 貯金は本当にある!」
ガレスは胸を張って言う。
「どれくらい?」
「まあまあだな」
「つまり、ないのね?」
「なんでそうなる。あると言ってるだろう。エラ、俺はこう見えてもかつては世界中から引っ張りだこだったんだ」
ガレスは親指で自分を指し、誇らしげな顔をした。
(世界中から引っ張りだこ? 木こりが……?)
そんなの聞いたことがない。
町で引っ張りだこ、ならまだわかるが。
「はいはい、わかったわ。でも、木こりの仕事はするわ」
「おい、話を聞け。却下だ」
「ついでに、熊も退治しておきます」
「それは木こりの仕事じゃねえ」
エノレアはむうっと頬を膨らませる。
一向に引こうとしないエノレアの態度に、ガレスは、はあっと息を吐いた。
「あー、わかった。そんなに働きたいならもう止めん」
「本当? じゃあ、木こり──」
「ただ、木こりは違う」
エノレアが喋り終わる前に、ガレスは被せる。
「え?」
「お前ならもっといい仕事がある」