雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

 
 エノレアが試験会場に到着したのは、試験開始の十五分前だった。
 既に数百人の受験者が集まっており、会場となる大広間は多くの人で賑わっている。

「わあ、人がたくさん」

 見るからに仕立てのよい服を着ているのは貴族の子息だろうか。眼鏡をかけた学者風の人や、本を見つめたままぶつぶつと何か呟いている怪しげな人もいる。
 この中で合格するのは十人程度しかいない。倍率が二十倍近い難関だ。

 試験官が問題を配る。「始め!」という掛け声で、エノレアは問題用紙を開いた。 
 所謂総合問題で、歴史、国語、数学などの様々な科目が複雑に絡んだ問いになっていた。

(さすがは第一級文官試験だわ。学校のテストとはひと味違うわね。お父さんの出してくれる問題よりはだいぶ簡単だけど)

 今まで、エノレアの中で『試験』と言えば、それは即ち学校のテストのことだった。しかし、今受けているこの試験は学校の試験より明らかに捻りが効いている。
 しかし、ガレスに鍛えられたエノレアにとって、そこまで難しい問題はなかった。

 エノレアはさらさらと解答を書き始める。

(あ、これは暗号だわ)

 ずっと昔に、ガレスと似たような問題を解いたことがある。

(古代語翻訳は北方方言が混じっててちょっと読みにくいわね)

 エノレアは最初から最後まで、迷うことなく筆を走らせ続ける。
 全てを解き終えて、エノレアはペンを置く。

(終わっちゃった)

 時計を見るとまだ一時間半も残っていた。元は二時間半の試験なので、一時間で終わらせたようだ。
 暫くそのまま座って待ってみたものの、一時間半は長すぎる。

 エノレアはサッと右手を上げた。それに気づいた試験官が近づいてくる。

「どうしましたか?」
「もう帰っていいですか?」
「途中辞退ということでよろしいでしょうか?」
「いえ。辞退じゃなくて、全部解き終わったんです」

 エノレアは大まじめに答える。
 試験官は怪訝な顔をした。

「一度退室したら、再入室は禁止です」
「再入室はしないから大丈夫です」
「まだ一時間半あります。あきらめるには早いですよ」

 まるで諭すような言い方だ。
 今度はエノレアが怪訝な顔をした。
 
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