雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
間もなく、お茶会が始まる。
白いテーブルには紅茶と菓子が並べられた。
エノレアの前、リリアナとの間に薔薇の絵付けがされた美しいカップが置かれ、琥珀色の紅茶が注がれる。
(わあ、綺麗。それに、いい匂い)
こんなに美しい食器に自分が触れていいのだろうか。ロングレイン侯爵家では不用意に物に触れるとあとから酷く怒られるので、戸惑ってしまう。
そのとき、隣に座っていたリリアナが、エノレアの前にある皿を指さす。
「おねえさま、そのおかしを取って」
「うん」
エノレアは言われるがままに菓子皿へ手を伸ばす。
その隙に、リリアナがエノレアの前にあったカップを手に取る。間違えたようだ。
「あ。リリアナ、それは私の──」
止めるより先に、リリアナはカップに口を付けていた。
次の瞬間。ぱりん、と甲高い音が響く。
リリアナがカップを落としたのだ。
「リリアナ?」
びっくりしたエノレアはリリアナに話しかける。
リリアナは目を見開き、喉を押さえていた。
顔色がみるみる青ざめていく。
「どうしたの、リリアナ!」
明らかに様子がおかしいことに気付いたエノレアは焦った。
そうこうするうちに、リリアナの呼吸はヒューヒューと苦しそうな音に変わってゆく。
(これ、もしかして毒……!)
エノレアは直感した。
薬師だった母から教わったことがある症状に似ていると思った。
「リリアナ!」
異変に気付いたロングレイン侯爵夫人の悲鳴が響く。
会場が一気に騒然となった。


