雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
オリバーに伝えられた接客室に行く。ロングレイン侯爵とその娘──リリアナはレニオスの来訪に気付くと、立ち上がった。
「レニオス殿下にご挨拶申し上げます。少し早く着いてしまい申し訳ありませんでした」
申し訳ないという言葉とは裏腹に、その態度からは微塵の申し訳なさも感じられない。
「……今日はなんの用だ?」
「お忙しいようなので、こちらから参ったまでです」
「忙しいとわかっていながらこんなに頻繁に訪ねてくるとは、俺に対する嫌がらせか?」
レニオスは挑発するようにロングレイン侯爵を見つめる。ロングレイン侯爵のこめかみがぴくりと動いた。
「それは誤解です。私ほどレニオス殿下のことを心配している者は他にいないでしょう。未来の息子を気遣うおいぼれの気持ちをご理解ください」
「気が早いことだ。俺とロングレイン侯爵令嬢は正式に婚約しているわけではないはずだが?」
「殿下。八年前にお后様とロングレイン侯爵家で交わされた契約をお忘れですか。殿下は私の息子も同然。心配するのは当たり前ではないですか」
「心配、ね……」
レニオスはハッと鼻で笑う。
リーヴの王子たちは様々な色を有する宮殿を与えられるのが伝統だ。
それぞれの宮殿には国の地域が均等に割り当てられており、王子たちは自分たちの担当する地域を治めることで父である国王を助ける。そして国王は、王子たちの手腕を見比べることで未来の国王にふさわしいのは誰かを見定めるのだ。
レニオスは今は青嵐宮を与えられ、そこの主として自身が担当する地域を治めている。
しかし、いずれ兄弟の中で次の国王が決まり、彼の子供がある程度成長したら、ここを出ていくことになるだろう。