雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
レオナルドは忌々しげに呟く。
青嵐宮の主であり、腹違いの弟でもあるレニオスのことは、昔から気に入らなかった。
小さなころからいつも澄ました態度を取っており、年上であるレオナルドが何かを命じても、すぐには従わずにじっと見つめて来る。
中でも一番腹が立ったのは、レオナルドが十歳、レニオスが八歳の頃のことだった。
──その日、王宮の庭でレオナルドは友人と騎士ごっこをしていた。そのとき、従者を連れたレニオスが近くを通りかかった。
「おい、レニオス。いいところに来た。お前の従者を貸せ」
「どうしてですか?」
「騎士には敵が必要だ。敵役をやらせるには適任だろう?」
レオナルドと一緒にいた友人達は全員高位貴族の令息だ。その点、レニオスが連れていたのは平民出身の線の細い若者だった。平民であれば、痛めつけても誰にも文句は言われない。
第一王子である自分に逆らう者などいない。
そう思って当然のように命じたのだが、レニオスの返事は予想外のものだった。
「嫌です」
「なんだと?」
「兄上たちは五人、私の従者はこの者一人だけです。それでは騎士ごっこではなく、ただの弱い者いじめでしょう」
レオナルドは頬が熱くなるのを感じた。
「生意気な! 私の命令が聞けないのか!」
「正しい命令なら従います」