雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!


 エノレアはすぐに出かける準備をして、馬車に乗り込むために青嵐宮の正面入り口に向かった。護衛騎士が傍に立って、馬車が停まっている。

(殿下は……まだいらっしゃらないようね)

 周囲を見回すが、レニオスとエドガーはまだ来ていないようだ。エノレアは停まっている馬車を見る。

「わあ。これが殿下の乗っている馬車……」

 視察用の馬車なので装飾の少ない小型馬車なのだが、それでもエノレアのよく知る乗合馬車とは比べ物にならない豪華さだ。

「第一級文官のエノレア・グレイです。今日は殿下の視察に同行します」

 エノレアは馬車の脇に立つ騎士に声をかける。

「この馬車、もっと近くで見てもいいかしら?」
「問題ありません」

 騎士が頷く。その返事を聞き、エノレアは表情を明るくした。 

(せっかくだから、よく見ておこう)

 わくわくしながら車体に触れようとしたそのとき、すんと懐かしい香りがしてエノレアはおやっと思う。

「この香りって……」
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