雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「どうした」

 レニオスが一歩前に出て、問う。
 エノレアはしゃがみ込んだまま。車体の下を指さした。

「レニオス殿下、エドガー様。この車輪の軸、大きく傷ついて削れてしまっています。このまま出発すると途中で耐え切れず折れてしまい、大変なことになるかもしれないので馬車を替えたほうがいいかと」
「なんだって?」

 眉を顰めたエドガーがエノレアの隣から車体の下を覗き込む。エノレアの言う通り、車軸が大きく傷付き。軸の太さが本来の半分もない。

「本当だ。あと少しで折れそうだ」

 エドガーは青ざめる。

「このまま街道を走れば、車輪が外れて横転していたかもしれません」

 その場が静まり返った。

 レニオスが一歩前に出る。

「エドガー。代わりの馬車の手配を。それとお前」

 レニオスにじろっと睨まれた御者は顔を真っ青にして震えあがる。

「出発前に異変がないか確認していないのか」
「も、申し訳ございません」
「王族が乗る馬車は必ず使用前に点検をすることになっている。つまり、決められた手順すら守っていなかったということだな?」
「そ、それは……」

 御者は気の毒なほどに青くなっていた。手や肩は小刻みに震えている。

「青嵐宮にこのような能無しがいるとは、非常に残念だ。今をもって、お前を解雇する」
「そ、そんなっ! 私には養っている妻と娘が──」
「俺には関係ない」

 レニオスは、冷たく言い放った。

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