雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
結局、エノレア達は馬車の変更や代理の御者の手配などで一時間ほど遅れて青嵐宮を出発した。
「エノレア。どうしてお前は、あの馬車に異常があると気付いた?」
レニオスは斜め前に向かい合って座るエノレアに尋ねる。
「匂いです」
「匂い?」
「はい。木を削った、比較的新しい香りがしました」
「……それも、木こりの知識か?」
「はい」
エノレアは頷く。レニオスはそれを聞き、黙りこんだ。
また木こりだ。
(木こりとは、一体……)
エノレアの話を聞いていると、まるで木こりという職業が何でもできる万能職のようにすら思えてくる。
「とにかく、お前のおかげで大事故になる可能性があったものを未然に防げたのは間違いない。礼を言う」
「いえ、お構いなく。当然のことをしたまでです」
「……当然か」
「はい。だって、レニオス殿下は私たちの主ですから」
エノレアは淀みなく答える。
「それに、レニオス殿下が元気でいらっしゃらないと、美味しい晩餐をいただけなくなってしまいます」