雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
一瞬の静寂ののち、エノレアの隣に座るエドガーが、ぶほっと吹き出した。
レニオスも一瞬だけ目を丸くしたあと、小さく息を漏らす。
「それもそうだ。では、今回は晩餐に加えて、持ち帰れる菓子類も用意させよう」
「え、本当ですか? ありがとうございます!」
エノレアは目をキラキラと輝かせる。その姿は、まるで子供のようだ。
「その代わり、今後も俺のためにしっかり仕えろ」
「もちろんです」
即答するエノレアは、お菓子をもらえるのがよっぽど嬉しかったのかにこにこの笑顔だ。
(普通、食べ物ぐらいでこんなに喜ぶか?)
レニオスには理解できない感覚だ。だが、見ていて嫌な印象は全くなかった。むしろ、こんなものでこんなに喜ぶ姿は──。
「……可愛いな」
「え? 何か言いましたか?」
レニオスはハッとする。
(俺は今、何を──)
こんな言葉を口走るなんて、自分でも驚きだった。
一方のエノレアは、きょとんとした顔でレニオスを見ている。エドガーにも聞こえていなかったようで、怪訝な顔をしていた。
「なんでもない」
「そうですか?」
「視察先の橋梁までは一時間以上かかる。ふたりとも休んでろ」
「はい」