雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
たくさんのお菓子を買って店を出る。
あたりを見回したが、馬車はまだ戻っていなかった。
「馬車、まだ戻ってないですね」
「この時間帯は通りの人通りが多いから、うまく進めないのだろう。エドガーと別れて三十分経っているから、そろそろ来るはずだ」
「そうですね」
エノレアとレニオスは、通りの端に寄り馬車を待つことにした。
ふと、道行く人々がちらちらと自分たちのほうを見ていることに気付く。
(何を見ているんだろう?)
ちょうど目の前を通った、頬を赤くした若い女性の視線をエノレアは追う。
(殿下を見てる?)
エノレアはレニオスの横顔を窺い見る。
高い身長に程よく鍛えた体躯、そして、彫刻のように整った顔立ちは少し冷たそうに見える。だからこそ、さっき屈託なく笑う姿を見て、こんな表情のできるのかと驚いた。
(綺麗な顔……)
そこまで考えて、ハッとする。
(私、何考えているんだろ。上司に対して不埒だわ!)
エノレアは前を向いて気を引き締める。すると、横からくすっと笑い声が聞こえた。
「さっきから百面相だな。何を考えている?」
「え?」
興味深げにこちらを見つめるレニオスが楽しげに見えて、エノレアはドキッとする。
(この胸のざわめきは何?)
自分に問いかける。
胸のあたりがざわざわとするこの感覚は……森でときどき感じたものだ。