雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
(これ、殺気!)

 間違いない。近くに、自分たちを狙っているモノがいる。

「殿下、失礼」

 エノレアはレニオスの前に立つと、彼を壁にドンと押し付ける。
 背後を壁に付けたほうが狙われにくいからだ。

「おい、エノレア⁉」

 レニオスの目がまん丸に見開かれる。
 女に壁ドンされるなんて初めでだろうから驚くのも無理はないが、今はそれどころではない。

「これ持って!」

 エノレアは持っていた菓子をレニオスに押し付ける。
 そして、彼の肩に手を置いて支えにすると、背後からナイフを振りかざした男に回し蹴りを食らわせた。

「ぐはっ!」

 見事に命中したキックで、男は仰向けに倒れる。いかにもガラの悪そうな、三十代半ばの男だった。
 さらに、男の手にあったナイフを蹴り飛ばした。

「この女っ!」

 起き上がろうとした男にエノレアは躊躇なく飛び掛かる。こういうときは、怯んだら負けなのだ。
 男の首に全体重をかけ、動きを封じる。そして、彼の両手を頭の上で捻り上げ、強く引いて肩の関節を外した。

「うわあー、痛え! 痛えよ!」
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