雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!

(熊と戦う? 本気か?)

 王族や貴族は狩猟を嗜むが、猟銃を持っていても熊相手だと命を落とすことも多い。エノレアのような線の細い令嬢が戦えるとはとても思えなかった。
 しかし、先ほどエノレアが自分より二回りくらい大きな屈強の男を一撃で仕留めたのを見てしまっては、信じざるを得なかった。

「それも、木こりの父親に教わったと?」
「はい」

 エノレアは頷く。

「殿下に怪我無くてよかったです」

 にこっと微笑むエノレアを見て、胸がぎゅっと締め付けられる。

(なんだ?)

 レニオスは、自分の胸のあたりを軽く触れる。

「どうかなさいましたか?」
「今、締め付けられた気がした」
「ええ! 軽い狭心症じゃないですか? 過労ですよ、きっと。休んでください」

 エノレアは早口で捲し立てる。

「そうか、これは過労か……」

 確かにそうかもしれない。
 青嵐宮の主となってから、休みらしい休みを取った記憶がない。

「では、今夜はゆっくり休むことにする」
「はい。それがいいです。このお菓子、食後に一緒に食べましょう」

 エノレアは菓子が入った紙袋を自分の顔の横に持ち上げて微笑む。
 また、胸のあたりがざわついた。


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