雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
そもそも褒美として食事に招待しているのだから、食事を共にしない日のほうが圧倒的に多い。けれど、いつの間にか、着実に、エノレアはレニオスの生活の一部になりつつあった。
(エノレアは、今日の夕食に何を食べているのだろう)
ふと、そんなことを考える。
なぜこんなにも彼女のことが気にかかるのか、自分でも掴み切れなかった。
◇ ◇ ◇
それは、次年度予算編成に関する会議を終えてエノレアがひとりで移動しているときのことだ。
分厚い予算書を積み重ねたものを運びながら歩いていると、前方から見慣れた人物──レニオスとエドガーが歩いてくるのが見えた。
「殿下、ごきげんよう」
「ああ。……何を持っているんだ?」
「予算申請書類です。次年度予算編成の打ち合わせをし始めているので」
エノレアは答える。
最終的な予算編成が完成する前には、各部に次年度予算の要望額を聞きその必要性を精査する。今まさに、その佳境なのだ。
「重いのではないか?」
レニオスは書類の束を見て、眉間にしわを寄せている。
「まあ、重いですが全然問題ないです。山道を薪を担いで運ぶのに比べたら、綿毛みたいなものですね」
「綿毛……」
何冊もある分厚い書類が綿毛のはずがない。普通の令嬢であれば、持ち上げることすらできないだろう。
当のエノレアはなぜそんなことが気にかかるのか、きょとんとした顔をしている。