雪山に捨てられた少女、伝説の元最強諜報員に拾われる。無自覚万能令嬢は『普通の生活』をお望みです!
「貸せ。運んでやる」
「ええ⁉ 大丈夫です。私、こう見えても力持ちなんで」
「知っている」
暴漢に回し蹴りを食らわせ一撃で退治し、森では熊と戦い、大量の薪を背負って歩いている女である。並の令嬢、いや、並の男より力があることは、レニオスも嫌というほど理解していた。
だが、なぜだか放っておけない。
「お前が力持ちなのと、この資料を運ぶのは別問題だ。少しは加減を知れ」
レニオスはエノレアの顔を見ながら、淡々と告げる。
「昨日も深夜まで残っていただろう」
「よく知っていますね。あと少しで終わりそうだったので」
「食事は?」
「食べました」
「何を食べた?」
「バターを塗ったパンを四切れです」
「それは食事とは呼ばない」
ぴしゃりと言われ、エノレアは口をつぐんだ。
「でも、父は胃の中に入って消化されれば全部食事だと言っていました」
「一体お前がどういう食事をこれまでしてきたのか、非常に興味深いな」
「今度作ってあげましょうか? 塩味です」
「いや、遠慮しておこう」
レニオスの背後で、エドガーが肩を震わせている。笑いを堪えているのは明らかだった。