愛しのオオカミ
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…ど、どうかな…っ?」
「…最初よりはよくなったんじゃないか?変な走りには感じなかった…とは思う…」
「ほんと!?良かったぁ…はぁ…はぁ…」
「…少し、休め」
「うん!…あれ?亮太くん、どこ行ったんだろ?」
その場にぺたりと座り込んだ美紀の隣に、修も一緒に座った。
少し湿ったような風が、二人の髪の毛を揺らす。
膝を抱えた美紀は、最初に転んだ部分を少しだけ擦りむいているのに気づくが、嬉しそうに笑った。
「黒井くん、今日はありがとう。体力はまだ全然だけど、走り方には自信がつきそう」
「…そうか…」
「…あの、リレー、嫌じゃなかった…」
不安そうに横目でチラリと修を見る美紀は、様子を伺った。
「……さぁ…けど、押花のへんてこな走りを見てると、同じ組色になったときに負けそうだなとは思ったな。だから、出る」
「え…えぇ!?それは、ちょっと…ひどくないかな…?」
「…ふ…っ」
芝生に手をついて体を支えていた修が、ふき出す様子を見ると、美紀も一緒に笑ってしまった。
クスクスと笑っていると、急に頬にタオルがあてられる。
紺色のタオルに気付くと、修が拭いてくれていることをようやく理解した。
「く、黒井くん…!?」
「…土、ついてる」
「あり、がとう…」
思わず赤くなってしまう美紀は、修から視線を逸らしてしまった。
「あの…黒井くんは、前の学校でも放課後とか、練習したりしてたの?」
「…いや、したことない。…初めてだ」
「私も!なんか…楽しいよね…」
照れ笑いしながら、修にもう一度視線を戻すと、夕日がまぶしく感じるほどの微笑みを見せてくれていた。
そのまま修も美紀の方を見て、口を開いた。
「…俺も、初めてかもしれない…楽しいのは。…押花が…」
「………?」
「…いや…」
最後まで言葉を聞けなかったものの、笑っている修を見られて美紀の心はあたたかかった。
そこへ、ようやく亮太が、人数分の飲み物を持って戻ってきた。
「お待たせ~ほい。美紀ちゃんのと黒井くんの。差し入れだから、気にしないで~」
「わぁ!ありがとう…!」
「……」
亮太からスポーツ飲料のペットボトルを受け取るが、修が受け取ろうとすると、サッと避ける亮太。
そんなやり取りが無言で続く。
「……なんだ」
「いや~…なんか、オレの手が素直に渡したくないって~」
「…差し入れなんだろう」
「うん」
イラ立ってきたのか、ジロリと亮太を睨む修は、バッとペットボトルを奪い取った。
ニコニコと笑う亮太は、一瞬鋭い視線を修へ向けた。
「…美紀ちゃんと何話してた?」