愛しのオオカミ
小さく頷く美紀を見ると、亮太は笑って美紀のバッグを持ち、修へと差し出した。


「はいっ、黒井くん持って」

「……」


亮太の意図を汲み取ったのか、目を伏せながら美紀のバッグを受け取る修。
そして、亮太は美紀に背中を向けて屈んだ。


「…へ…?」

「お、おい…」

「おんぶ。校門まで。ほら、早く早く」


二パッと笑った亮太は、言葉だけであたふたする美紀を急かす。
驚いていた修もやめさせようと手を伸ばしたが、亮太の背中に手を伸ばした美紀を見てやめると、拳を握った。


「…えっと…お願い、します…」

「はいよ!」

(他の部活の人たちもいないし…黒井くん以外、誰も見てない…よね…)


疲労から思考がぼんやりする美紀は、亮太の背中に自身を預けた。


「よいせ…っ」

「ご、ごめんね…」

「いいよぉ~。明日から授業でも練習始まるし、無理は禁物だよね~黒井くん?」

「……」


歩き出す亮太は顔だけ振り返って笑って見せると、修は少し睨むように見た。
しかし、修の紺色のタオルを被ったまま、黙っている美紀を見ると、鋭い目つきが柔らかくなる。


「…すー…すー…」

「あら。寝た?」


耳元で聞こえる寝息に、クスっと笑うと、亮太は歩いた。


「…黒井くんさー、女子にモテるよねぇ」

「………」

「こっちに転校してきたのって、なんで?」

「…お前に関係あるのか?」

「……ん~…どうだろうね。…ハナがいいからさ~オレ…」


並んで歩く二人の会話の中で、美紀の寝息が静かに聞こえてくる。


「あとさ、美紀ちゃんの体質に気づいてるでしょ?引き寄せられてるのかもね…オレたちも…」

「……言っている意味がわからない」


立ち止まった亮太は真顔と、鈍い眼差しで修を睨みつけた。


「…君、一族だろ?」

「………何の話か、俺にはわからない」

「…ん……は…っ!ご、りょっ、亮太く、ごめ…!」


校門あたりに差し掛かって美紀が顔を上げると、二人の会話が止まってしまった。
慌てる美紀をそっと降ろし、二パッと笑う。


「おはよ~…って、ちょっとふらついてるじゃん」

「だ、大丈夫…!」


美紀の肩を掴んで自分の方へ寄り掛からせる亮太は、チラッと修を見て美紀へと視線を落とした。


「…じゃあ、あとは黒井くんにお願いしようかな…」

「うん…ごめんね…!もう歩けるよっ。今日はありがとう!」

「ううん~。また明日ね~」


修の紺色のタオルを首に掛けたままの美紀は、手を振って亮太と別れる。
そして修へと顔を上げて、話しかけようとした瞬間、後ろから腕を引かれたかと思うと、耳元で亮太の声がした。


「…美紀ちゃん、気をつけなね…?」
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