愛しのオオカミ
美紀の中で、中学時代の友人たちの罵声の言葉が響いた。
「…こ、コンタクトは少し怖くて…」
「え~…理由も可愛いとかまじかー…」
「ねぇ、そろそろ終わろう~時間来るよ~」
またひとりの声かけを合図に、美紀に集まっていた人たちが、ゆっくりと散らばっていく。
ホッとしてしまった美紀も、帰りの準備をして出ていく人の流れに入った。
「え!?なんで!?」
「うそ!え、え!?あ、待ち!?」
(…?)
出入り口付近で出る女子の上げる声が聞こえてくると、顔を上げてすき間から見た。
「…く」
「黒井くん!?どしたの!?」
「えー!?一緒に帰ろ~!」
黄色い声に変ったことに気づいたのと同時に、壁に寄りかかって立っている修に数人が集まった。
困惑のような眉を寄せた表情になっていると、美紀と目が合う。
「押花」
修は、すぐに人だかりを避けて、美紀の方へ歩いてくると、ドクッと鼓動が高鳴るのを感じた。
近づいてくる修とは反対に、顔を下に向けてしまう美紀。
「ほらぁ!やっぱり…!」
「やばいやばいって~!早く帰ろ~!」
俯いていても聞こえてくる周りの声に、美紀の顔は熱くなった。
「押花、本。読んだ」
「……え…?」
「読んだから、感想…言いに来た」
修の言葉に顔を上げると、冷たくも鋭い目と視線が合った。
バッグからゴソゴソと数冊の本を取り出して美紀に見せると、休日におすすめした本であることがわかった。
「…わざわざ…?」
「……連絡先を知らない」
「…あ……と…」
「押花ちゃん、そこは交換したらいいんじゃない?」
最後に出てきた女子生徒が、微笑みながらグッドポーズをみせる。
真っ赤になる美紀は、言われるままスマホを取り出した。
「…えっと…MINE……こ、交換…」
「…あぁ………」
「やばぁ…語彙力なくす光景…」
スマホを持って固まる美紀は、スマホを取り出して画面操作する修が止まるのを待った。
周囲の女子も遠目に見守る。
「読み取りとどっちだ?」
「わ、私が…出しました…!!」
QRコードの表示画面を見せると、修がかざして読み取った。
数秒後に、“友だち追加”の表示画面が映り、美紀の目が輝いて修と画面を交互に見た。
「…早く追加してくれ」
「う、うん…!!」
震える指でタップすると、“黒井”と表示された画面を見つめる。
すると、可愛らしい犬のスタンプで『よろしく』と送られてきた。
「…ふふ…可愛いね…」
「……あぁ…」
照れ笑いを見せる美紀は、口元をスマホで隠して笑った。
周囲の女子は拝んだり、両手に顔を埋めたりと撃沈していた。